▌トランス脂肪酸等に関する低減化に関する取組み
平成30年8月6日更新
お客様各位
「トランス脂肪酸等の低減化に関する取組みについて」
一般社団法人日本パン工業会
消費者庁は、2011年2月に食品事業者が自主的にトランス脂肪酸を含む脂質に関する情報を開示する取り組みを進めるためのガイドラインとして「トランス脂肪酸の情報開示に関する指針」を公表し、2012年3月には内閣府食品安全委員会により「食品に含まれるトランス脂肪酸に関する食品健康影響評価(リスク評価)」が取りまとめられ、2015年5月には消費者委員会から「トランス脂肪酸に関する取りまとめ」が公表されています。標準的な日本の食生活では諸外国と比較してトランス脂肪酸の摂取量が少ない傾向にあり、日本においては、トランス脂肪酸の摂取による健康への影響は小さいと考えられます。しかしながら、脂肪の多い食品の食べ過ぎなど偏った食事をしている場合には、トランス脂肪酸、飽和脂肪酸およびコレステロールの摂取量が多くなる可能性がありますので、脂肪の摂り過ぎに留意し、バランスのよい食事を摂ることが大切です。
当会では、トランス脂肪酸に関しましては、お客様の関心が高いことから、現時点でのトランス脂肪酸、飽和脂肪酸およびコレステロールに関して入手できる情報をホームページでお伝えいたします。当会では、2005年からトランス脂肪酸の低減化に向け検討を行っており、現在ではパン類の原材料油脂中のトランス脂肪酸は1/5から1/20まで低減化が図られています。
今後もおいしさを維持しながらトランス脂肪酸の低減化を進めると共に、安全・安心な製品をお届けするため、科学的根拠に基づいた適切な情報を提供してまいります。
1 トランス脂肪酸とは
日常摂取する主なトランス脂肪酸は、マーガリン、ショートニングなどの硬化油、脱臭のためシス型不飽和脂肪酸を200℃以上の高温で処理した食用植物油、乳や反すう動物の肉などに由来しています。
脂肪酸とは、油脂などの構成成分で、炭素(C)、水素(H)、酸素(O)で構成され、水素原子の結合した炭素原子が鎖状につながった構造となっているものです。脂肪酸は飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸に分類され、炭素と炭素が2つの手で結び付いた二重結合(不飽和)を一つ以上持っているものが不飽和脂肪酸と呼ばれます。さらに、不飽和脂肪酸は、二重結合の炭素に結び付く水素の向きでトランス型とシス型の2種類に分かれます。水素の結び付き方が互い違いになっている方をトランス型といい、同じ向きになっている方をシス型といいます。天然ではほとんどの場合、不飽和脂肪酸はシス型で存在します。
【不飽和脂肪酸中の炭素 - 炭素 二重結合】
2 トランス脂肪酸の健康への影響
トランス脂肪酸は長期間の過剰摂取により、血中のLDLコレステロール(悪玉コレステロール)を増やし、HDLコレステロール(善玉コレステロール)を減少させることが指摘されており、その結果として、動脈硬化などによる虚血性心疾患のリスクを高めるといわれておりますが、食生活、食習慣に応じて各国のトランス脂肪酸の摂取状況は大きく差があるとされております。
WHO(世界保健機関)とFAO(食糧農業機関)の「食事、栄養及び慢性疾患予防に関するWHO/FAOの合同専門家会合」(2003年)では、心臓血管系の健康増進のため、食事からのトランス脂肪酸の摂取を極めて低く抑えるべきであり、最大でも一日当たりの総エネルギー摂取量の1%未満とするように勧告しています。
日本では、消費者庁が食品事業者に対しトランス脂肪酸を含む脂質に関する情報を自主的に開示する取り組みを促す目的で「トランス脂肪酸の情報開示に関する指針」を公表しました(2011年2月21日)。また、「食品に含まれるトランス脂肪酸に関する食品健康影響評価(リスク評価)」(2012年3月、食品安全委員会より公表)および「トランス脂肪酸に関する取りまとめ」(2015年5月、消費者委員会より公表)によると、大多数の日本人のトランス脂肪酸摂取量はWHOの目標(勧告)を下回っており、脂質に偏った食事をしている人は留意する必要があるものの、通常の食生活では健康への影響は小さいと考えられるとの見解が示されております。
2015年6月、FDA(米国食品医薬品庁)は、トランス脂肪酸が多く含まれる部分水素添加油脂を、GRAS(従来から使われており、安全が確認されている物質)の対象から除外し、食品への使用の原則禁止を決定しました。この規制は3年間の猶予期間を経て、2018年6月より開始されました。この動きを受けて、内閣府食品安全委員会は「食品に含まれるトランス脂肪酸の食品健康影響評価の状況について」を更新(2015年6月19日)し、また、2018年5月に食品安全委員会が報道関係者に対して行った意見交換会資料「脂質の摂取~トランス脂肪酸を理解するために~」では、日本でのトランス脂肪酸の平均摂取量が0.31%と米国の1.1%より少なく、WHOの目標である対総エネルギー摂取量の1%未満を下回っていることから、通常の食生活では健康への影響は小さいと考えられるとの見解を示しています。
脂質の摂取~トランス脂肪酸を理解するために~ | PDF(約940KB) |
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詳細については「消費者庁ホームページ」、「食品安全委員会ホームページ」下記を参照してください。
3 日本におけるトランス脂肪酸摂取の現状
トランス脂肪酸の摂取量については、食品安全委員会から公表されております。
1998年の調査では、日本人のトランス脂肪酸の摂取量は一日当たり平均1.56gとなっており、摂取エネルギーの0.7%に相当することが公表されました。さらに、その後の調査で、日本人の一日当たりの平均的なトランス脂肪酸の推計摂取量は、2006年、2010年ともに総エネルギー摂取量の0.3%であり、WHO/FAO合同専門家会合が目標とする一日当たりの総エネルギー摂取量の1%未満注1)であることから、日本人のトランス脂肪酸摂取量は諸外国に比べて少ない傾向であることが報告されております。
注1)総エネルギー摂取量を2,200kcal/日とすると、計算上、その1%のエネルギーに相当するトランス脂肪酸量は2.4gとなる。
1人あたりの一日に摂取するトランス脂肪酸量注2)
調査年 | 摂取量(g/人/日) | 一日当たりの総エネルギー摂取量に占める割合 | |
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米国 | 2009~2010年 | 2.5 | 1.1% |
カナダ | 2008年 | 3.4 | 1.42% |
EU | 1995~1996年 2004年 |
男1.2~6.7 女1.7~4.1 |
男0.5~2.1% 女0.8~1.9% 1~2% |
日本 | 2006/2010年 | 0.7 | 0.31 |
注2)食品安全委員会「食品中に含まれるトランス脂肪酸」評価書(2012年3月)より
ただし、米国、カナダは内閣府食品安全委員会資料「脂質の摂取~トランス脂肪酸を理解するために~」から引用
参考)食用加工油脂の国内生産量からのトランス脂肪酸摂取量の推計:
総エネルギー摂取量の0.7%(1998年)、0.6%(2006年)、0.7%(2008年)
詳細については、「食品安全委員会ホームページ」を参照してください。
4 トランス脂肪酸がパン類に含まれている理由
パン類の原材料として使用されるマーガリンやショートニングなどの油脂には、大豆、菜種、とうもろこし、パームなどの植物に由来するものと、バターやラードなどのように動物に由来するものとがあります。これらの中で最も一般的に油糧原料として使用されている大豆、菜種、とうもろこしは常温で液状であることから、パン製造に適するよう固体状にしたマーガリンやショートニングが必要となります。これらの固形脂は水素添加によって得られ、硬化油と呼ばれます。この硬化油の製造過程において、不飽和脂肪酸が飽和脂肪酸に変化する反応と同時に副反応として、シス型で存在していた不飽和脂肪酸の一部がトランス型の不飽和脂肪酸へ構造が変化することが知られています。硬化油とすることで、①油脂の融点が高くなることにより油っぽさを低下させるなどの固化特性の向上、②優れた酸化安定性の付与、③;油脂結晶の微細化の促進、がもたらされ、サクサク感、コク、しっとり感など特有の物性を付与します。デニッシュペストリーやドーナツなどの製品では、特にこの硬化油の特徴が必要となります。
動物に由来するトランス脂肪酸は、反芻動物の胃の中で微生物により生成され、乳製品、肉などにふくまれていることから、パン類にはバターなどに由来するトランス脂肪酸も含まれています。なお、工業由来と反芻動物由来のトランス脂肪酸では、重複した脂肪酸組成を示すため、現状ではそれらを分析上で判別する方法は報告されていません。
5 トランス脂肪酸の低減化の取り組みについて
油脂業界ではトランス脂肪酸に対する健康への影響の懸念から、平成10年代より低減化の検討を進めた結果、現在パン類の原材料として使用される多くの加工油脂製品で大幅なトランス脂肪酸量の低減化が図られています。トランス脂肪酸量低減に採用される代表的な手法としては、エステル交換技術、分別技術、結晶調整技術などが知られています。以下には、トランス脂肪酸が含まれる主な加工油脂原料での低減化の取り組みについて紹介します。
(1)マーガリン・ショートニング
デニッシュペストリーに使用される折り込み油脂やパン生地用練り込み油脂として、またバタークリームなどに使用されるマーガリン・ショートニングに求められる主な機能には、微細な結晶構造で滑らかな性状、可塑性を有することがあります。エステル交換技術によりトランス脂肪酸の低減化を図り、得られた融点の異なる油脂を組み合わせて使用することで、従来のマーガリン・ショートニングが有していた広い温度域での良好なスプレッド性やクリーミング性を、また折り込み用シートマーガリンでの伸展性を付与できるようになり、その結果、以前はこれらの油脂原料中のトランス脂肪酸量は20%を超えていたものが見られましたが、現在は1~5%程度まで低減が図られています。
(2)ドーナツ用フライオイル
ドーナツ用フライオイルに求められる主な機能として、他の油脂原料とは異なり長時間170~180℃という高温に晒されることから酸化や風味劣化に対する安定性が不可欠なこと、ドーナツは重量に占めるフライオイルに由来する部分の割合が多くなることから、ドーナツに相応しい風味を有すること、また日持ちが求められるドーナツでは製品が硬くなるのを最小限に止めることが必要となります。トランス脂肪酸を低減させて品質の維持を図るため、飽和脂肪酸を多く含むパーム油使用比率を高め、分別技術・エステル交換により酸化安定性の劣るリノール酸やリノレン酸等の多価不飽和脂肪酸量の比率を低くしております。その結果、ドーナツ用フライオイルでのトランス脂肪酸量は、以前は20~30%近く含有されていましたが、現在は平均2%以下のレベルまで大幅な低減が図られています。
(3)ホイップクリーム
硬化油に由来するホイップクリームの油脂原料に求められる主な機能としては、良好な気泡性・保型性の付与があります。そのため、ホイップクリームとしての品質を維持し、トランス脂肪酸を低減させる手法として、分別技術、エステル交換技術、結晶調整技術などの様々な技術を組み合わせています。その結果、現在使用されているホイップクリームのトランス脂肪酸量は2~3%台となっております。
※食品安全委員会と農林水産省は、食品中のトランス脂肪酸、脂質の濃度調査結果について公表(平成18年は食品安全委員会、平成19年、26年、27年は農林水産省)を行っており、平成26年、27年は、33品目中22品目で平成18年、19年よりトランス脂肪酸濃度が低い傾向となっております。
値は中央値 (カッコ内は範囲) |
脂質(g/食品100g) | トランス脂肪酸(g/食品100g) | ||
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H18、19 | H26、27 | H18、19 | H26、27 | |
食パン | 4.1(2.8-6.0) | 3.6(2.5-5.3) | 0.077(0.029-0..32) | 0.03(0.02-0.15) |
クロワッサン | 3.0(17.1-26.6) | 27(24-30) | 0.82(0.29-3.0) | 0.54(0.22-2.6) |
菓子パン | 12.3(2.9-20.2) | 14(6.3-21) | 0.27(0.039-0.78) | 0.18(0.04-0.42) |
マーガリン | 82.6(81.5-85.5) | 83(81-87) | 8.7(0.36-13) | 0.99(0.44-16) |
ショートニング | 100 | 100 | 12(1.2-31) | 1.0(0.46-24) |
ショートケーキ | 16.7(14.7-25.0) | 20(19-26) | 0.44(0.4-1.3) | 0.42(0.21-1.2) |
デニッシュ | 19.5(13.4-22.4) | 19(14-29) | 0.49(0.41-0.98) | 0.27(0.08-3.1) |
(2018年食品安全委員会資料「脂質の摂取~トランス脂肪酸を理解するために~」より引用)
6 トランス脂肪酸等の情報開示について
当会では、トランス脂肪酸等の情報開示は入手できる情報をホームページにより提供してまいります。特に関心の高いトランス脂肪酸につきましては、パン類では別々の企業が製造している製品であっても、例えばそれらが角型食パン、山型食パン(食パン)、あるいはあんパン、クリームパン(菓子パン)などの同じカテゴリーに属する銘柄であれば含有量に大きな差がないため、製品個々への表示ではなくホームページにより充分情報提供が図られるものと考えております。また、製パン業界の中にはトランス脂肪酸の情報収集が困難な企業もありますので、このホームページの活用が有効と考えております。
当会では、今後も引き続き製品中のトランス脂肪酸の低減化を進めていくと共にできる限り情報提供を行っていくことが、お客様のご要望にお応えし、安心してパン類を食べていただくために重要であると考えております。そのため、最大限正確な情報提供が可能であり、また日本パン工業会のみならずパン業界全体の情報提供の方法として、ホームページ上に代表的なパン類のトランス脂肪酸、飽和脂肪酸、コレステロール及び一般栄養成分の情報を掲載いたします。
パン類に含まれる脂質は私たちの身体にとって重要な栄養素です。また、特にデニッシュペストリーやドーナツなどを含む菓子パン類は、伝統的に脂質成分の働きによって一層おいしさや好ましい食感が引き出され、本来それを楽しむことに価値があるとされる食品です。個々の食品が持つ価値の多様性をご理解いただき、当会の栄養成分に関する情報をバランスのとれた食生活に配慮していくための目安としてご活用ください。
7 トランス脂肪酸等の分析について
ホームページに掲載のトランス脂肪酸の数値は、使用している原料油脂メーカーの情報に基づいて算出するか、または当会会員各社が独自に製品を分析して算出したものです。また、飽和脂肪酸およびコレステロールについては、一部は日本食品標準成分表に基づいているものもありますが、トランス脂肪酸と同様の方法によって算出しています。
なお、トランス脂肪酸の分析は主にAOAC 996.06(AOACインターナショナル公定法)または、基準油脂分析試験法 暫17-2007(日本油化学会の提唱する分析法)により行っています。
8 主なパン類のトランス脂肪酸、飽和脂肪酸、コレステロール等の含有量
ここで掲載している情報は2016年3月1日現在のものです。栄養成分情報は定期的に更新いたしますが、使用原材料の変更や製品の改廃などにより、ご案内の内容が変更されることがありますので、あらかじめご了承ください。
なお、個別製品の栄養成分ならびにトランス脂肪酸等の情報につきましては、製パン企業各社のホームページをご覧いただくか、お客様相談窓口にお問い合わせください。
「主なパン類のトランス脂肪酸、飽和脂肪酸、コレステロール等の含有量」 | PDF(約40KB) |
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注1)掲載の栄養成分の数値は、当会会員各社からの情報提供に基づいております。
注2)各栄養成分は、製品100g当たりの数値
注3)健康増進法に基づく栄養表示基準および「トランス脂肪酸の情報開示に関する指針」に基づき、いずれも製品100g当たり、脂質:0.5g未満、飽和脂肪酸:0.1g未満、コレステロール:5mg未満、トランス脂肪酸:0.3g未満の場合は0gとしております。